16章 転調(2)
ここではドミナントモーションと別の考え方で転調を行う方 法を解説します。先ほどの「近親調」「遠隔調」の概念はここ では関係ありません。
偽終止からの転調
元キーの終止部分に適用された偽終止をそのまま転調とみな して利用します。 簡単に言うと、V7からの偽終止に使われた「IIIm」「bVI」 などをトニックとする新調への転調です。キーCメジャーなら G7−EmやG7−Abという偽終止において、それぞれEマイナー、 Abメジャーのキーへ移るというものです。各々をトニックとし て、そこからEマイナーやAbメジャーなりの進行をさせればい いわけです。 これまで紹介してきた偽終止のパターンはV7-bIIやV7-IVmな ど他にも多くありますから、移動先のキーのバリエーションも かなり幅が広がってくるでしょう。 この場合は偽終止の段階で新たなキーに突入したと考えられ ますから、この部分のメロディラインは新調のスケールに準じ ることが要求されます。 例) G7 - (key in C = C D E F G A B) Em 〜 (key in Em = E F# G A B C D) V7 IIIm(新調のIm) ● 偽終止から転調 =非対応メニューです ◎ ソースを見る この偽終止からの転調はコーラスの変わり目やサビ前に使う と効果的でしょう。それは、直前にドミナント7thがあること で、ハーモニーのダイナミクスが持ち上がっている状態だから です。ここをうまくアレンジして盛り上げればサビの転調も破 壊力が増すことでしょう。
パラレルコードからの転調
パラレルコードとは、あるフォームのコードが、全音や半音 などのスケール状に平行移動する進行です。 ここでダイアトニックコードを思い出していただきたいんで すが、例えばトニックCコードからスケールをなぞって階段状 に上がっていくとDm - Em - FM - G7という風にコードのフォー ムも変わっていきます。一方パラレルコードは最初のCという メジャーコードの音形を保ったままDM - EM - FM - GMと平行移 動していきます。こうすることで、キーCメジャーならDMの段 階でノンダイアトニックコードになりますから、必然的に他の キーに入り込んでいくことになります。これを利用したのがパ ラレルコードによる転調です。 ● パラレル転調1 =非対応メニューです ◎ ソースを見る このサンプルはCメジャーキーのトニック−サブドミナント マイナーの進行から、そのままマイナーコードの平行移動でG マイナーキーへ転調する例です。これまで見てきたドミナント モーションを使う転調に比べて強い進行感がなく、ハーモニー 全体が浮き上がって順次的でスムーズな流れの中で転調する、 というような感覚になると思います。 ● パラレル転調2 =非対応メニューです ◎ ソースを見る 先月やったドミナント代理の分数コードをm3rd間隔のディミ ニッシュ状に平行移動させ、最後のD on E(機能的にはE7:こ の段階でキー=Aメジャー)から4度進行によって(疑似的な V7−I進行)新調Aメジャーへ転調しています。リズムアレン ジでこのようにちょっとしたキメを作ってやればアクセントが ついて面白いかもしれません。
応用
さて、ここまでの転調パターンは、今まで見てきたような、 ドミナント7thコードなりパラレルコードなりの、何らかのき っかけを経て「新調トニック」へ転調する、というものでした が、転調部の冒頭のコードを「トニック以外」と考えるとどう でしょうか。つまり、転調部分をトニック代理やサブドミナン トなどと見立ててみることで転調の幅はさらに広がります。 たとえばCメジャーというコードをとってみましょう。これ はまず順当に考えればCメジャーキーのトニックですが、同時 にGメジャーのIV(サブドミナント)でもあり、Eマイナーの bVI(代理トニック)だったりもします。ですから、転調を経て 「CM」のコードを導いた時、新調の選択にこれだけの幅があり 得るという事でもあるんです(同じコードでもキーによってコ ードスケールが違ってくるので、メロディラインの組み立てな どには注意が必要です)。 ● サンプル =非対応メニューです ◎ ソースを見る 先ほどのパラレル転調1のサンプルをいじった物です。転調 部のGm7はそのままですが、これをGマイナーキーのトニックと 考えず、FメジャーのIImとして扱ったパターンです。 この考え方のポイントは、転調部にベタベタなトニックの配 置を避けることによって、キーの変わり目ををあいまいにでき るという事であり、見方を変えれば、メロディラインとの兼ね 合いも含めて「いつの間にか転調」という技を可能にします。 使いこなせればスティービー・ワンダーとかスティーリー・ダ ンの曲のようにクルクル転調しまくり、かつ、転調の節目がよ くわからん、というかなりアクロバティックなパターンを作る こともできるでしょう。あたしゃー、面倒くさいのでやりませ んが。 (EOF)